インドで深刻な「性差別」と闘うサリーを着た男の話



差別されながら自分に正直に生きる!

なんと勇気のいることか…

 

「昨日は警察に尋問されて大変だったんだ」

 

身体と心の性が一致しないトランスジェンダーのインド人ラチャナさん (30代男性) はこう話しながらも、その権利擁護のために日々闘い、活動を続けています。

セックスワーカー(性労働に従事する人) でもあるラチャナさんは、インド南部の町ハイデラバードでサリー (女性用の伝統衣装) をまとい通りで客を待っていると、警察にさんざん嫌がらせをされることも。

 

「性労働者を本気で排除したいのであれば、教育と仕事の機会を与えてくれよ!」

 

 

活動家バイジャヤンティさんのケース

彼もまた厳しい道を歩んできました。富裕層の学校に入ったものの、女性的であったため男子生徒の標的にされ、レイプされることが日常化していました。

その後、家族により精神科病院に送られ、電気ショックや薬物による治療を、なんと9ヶ月間も受け続けたのです。父は今でも女性的であることに猛反対!!

 

しかし…

「神が私に心と違う体を与えたんだ」と反発!

 

 

インド最高裁の判断

人間の身体的、心理的な性の成立過程は複雑で、専門家の意見も分かれるところ…

 

インドの最高裁では、同性愛行為を犯罪とする一方で、2014年にはトランスジェンダーを「男でも女でもない第3の性である」と認めました。「教育や雇用でも優遇するように」とも。

 

しかし、

差別がなくなるわけではなかったのです。

第3の性を認めたインドの最高裁判決

 

 

税金取立ての仕事に失敗した「第3の性」

インド・チェンナイ市のトッカン (税金取立て屋) はおかまちゃんたち!しかもその悪質な取立て方法に一般市民からは苦情が絶えません…これを受けて市議会では、おかまちゃん税金徴収者を禁止せざるを得ない事態へと発展!

ヒジュラ (インドでは第3の性に属する人たちのことをこうも呼びます)よ、勘弁してくれ!」

 

※ インドでは、ヒジュラの人々を神聖視する地域もあるようです (ヒンズー教の教えでしょうか)

※ 一方で、ヒジュラは一般的なカースト制度から弾き出され、最下層の身分になるとも言われています

 

そんな彼らに対しチェンナイ市長は「ヒジュラたちに新たな仕事のチャンスを与えよう」「税収も25%アップするはずだ」と試みたのですが…

 

結果は…

「ヒジュラたちの取立ては厳しすぎる!」

「ふざけるなっ!」

と住民たちからは不満の声が止まない状況となってしまったのです。

 

住民たち曰く「奴らは呪いの言葉を浴びせセクハラしてまでお金を徴収しようとしやがるんだ!」と。

 

しかしヒジュラたちにも言い分はありました。

「税金の取立てに成功したらコミッションを受け取れるんだよ」「生活が苦しいから頑張るしかないんだ」

 

…結局、仕事を失うこととなってしまったのです。

税金取立ての職を失ったインドのヒジュラたち

 

 

性の多様性

現在、性の多様性を認める国は増えており、インドのほかオーストラリアなどでもパスポートで「第3の性別」を選択できるようになっています。ノルウェーでは、2015年に「両親と相談の上で7歳から自分の法律上の性別を変更できる」とする法案が議会に提出されました。

 

 

ラチャナさんのケース

話をラチャナさんに戻しましょう。

彼は中流家庭の長男として生まれました。幼い頃から自分のことを男だと思ったことは一度もない…こっそりと母親の口紅を塗ったりサリーを着ることがたまらなく好きな少年だったのです。

 

その後成長するにつれ、「お前はどうしていつも女のように振る舞っているんだ!」と家族からも非難されるようになります。

高校卒業後、彼は逃げるように家を飛び出し職を得ますが、給料は長らく未払い。。。水を飲むだけの日々が続き、街角で物乞いをしながら何とか1日1日を生き延びていたのです。

貧困で物乞いせざるを得ない社会の現実

(その後、体を売る仕事に転身)

 

 

トランスジェンダーの現実

インドでは、トランスジェンダーのほとんどが性労働に従事するか物乞いをするしか生きていく術がありません。そして、「公にしたその瞬間から差別を受けることになる」のです。

「学歴さえあれば職業の選択肢が広がるのに…」

 

そう信じていたラチャナさんは、性労働と併行して通信教育を受け始めます。尊厳を守るため、袋叩きの憂き目に遭いながらも路上で本を開くラチャナさん。

 

…4年後

経営学と社会学の修士号を手に入れたラチャナさんは、国際NGOで性労働者の相談役となります。

 

しかし…

上司や周囲の人々からは「トランスジェンダーは信用できない!」と差別を受け続ける生活にはなんら変わりがありません。

 

「くそ〜!学歴があっても差別されるのか…」

「悔しい…」

「これなら、一人で仕事のできる性労働者の方がまだマシじゃないかっ!」

「いや、そうだ!社会の制度を変えていくしかない!」

インド人トランスジェンダーたちが受ける差別と抗議活動

 

 

根気強い闘いの始まり

その後ラチャナさんは同志を募り、忍耐強く支援活動を始めることにしたのです。

「人は異質なものをなかなか理解しないものです。それでも、次世代のために根気よく対話を続けていくしかないんです!」

 

 

歴史的勝利!

2015年1月、インドのチャッティスガル州ライガル市で行われた市長選で、「第三の性」を持つ候補者が最も有力とみられたライバル候補者を下し歴史的な勝利を収めました。

当選したのはマドゥ・キナルさん (当選当時35歳)。ネット上では肯定的な意見が多いようです。

 

この勝利は、偏見に遭い時に警察による迫害の対象となることも多いインドのトランスジェンダーたちにとって勇気と希望を与えてくれました。

「人々は私を信じてくれました。この勝利は、みなさんの私への愛と祝福です。みなさんの夢を実現させるため、一生懸命努力します」

 インドで歴史的勝利したトランスジェンダーの市長

 

 

インド初のトランスジェンダーグループ「6 Pack Band」誕生!

2016年1月、インド初のトランスジェンダーバンド「6 Pack Band」がYouTubeにミュージックビデオを公開し衝撃のデビューを果たしました!公開初日に再生回数数十万回突破!

これは、ファレル・ウィリアムスの有名な「Happy」を「Ham Hain Happy」(英訳:We are happy)という曲でカバーしたものです。

インド人初のトランスジェンダーグループ

 

 

 

おわりに

「第3の性」が最高裁で認められた背景には、ラチャナさんたちの地道な努力がありました。

「何度も何度も踏みつけられながらも、その度に誇りと自由を守るため、私たちは懸命に闘ってきたのです」

「もう傷つかないし、自分のためには絶対に涙は流しません!」

 

笑顔でそう語るラチャナさんは今、夜は街に立ち、昼は自分を非難し続けた病身の父の世話をして暮らしています。