今、アジアでは韓国の電化製品が日本の製品より売れていると言われていますが、いったいなぜなのでしょうか?
性能自体は日本製の方が優れているはずなのに…
この要因としては以下のことが挙げられます。
1. 日本製品には無駄・余計な高機能が付いていて、韓国製は無駄を排除している
2. 日本製は値段が高い
3. 韓国製はアジア諸国でアフターケアがしっかりしている
4. 韓国企業の方がマーケティングがうまい
4に関しては、韓国企業のマーケティングは徹底されており、現地の人との友好関係をうまく築き、その地域に合わせた製品を送り出すシステムがしっかりと構築されているわけです。
一方、日本の場合は昔ながらの方法で、ブランド力に頼り切ってしまっています。今後は、「日本製に満足しているのは日本人だけ」ということにならないよう、現地のニーズをしっかり組み込む努力が必要なようです。
その国の要望に沿った、必要な機能だけに特化した製品作りに尽力し、コストを抑えていく必要がありそうです。
2011年の東日本大震災、タイの洪水、それに続く超円高、欧州危機の状況が続く中、日本企業にとってあまりよい話は聞こえてきません。
そのような中で、パナソニック、ソニー、シャープなどの大手企業の業績不振も相次いで伝えられています。
「日本のものづくり」は本当にダメになったのでしょうか?
しかし、よくよく見てみると日本の電機業界が押し並べて業績が悪いわけではないのです。電機大手の業績は明暗がくっきりと分かれています。
例えば日立製作所は好成績をあげています。一方、ソニーはテレビ事業不振によりイマイチな業績です。半導体関連においても、エルピーダは破綻してしまいましたし、ルネサスも不振…
つまり、勝ち組と負け組に大きく分かれている状況なのです。
パナソニック、ソニー、シャープのテレビ事業不振は、B2Cビジネスそのものが今の日本では振るわないからでしょうか?
一概にそうとは言い切れないでしょう。例えば、業績が好調の富士フィルムは、B2Bの液晶部材関連事業以外にもデジタルカメラや化粧品といったB2C事業を収益の柱に育てています。
逆に、エルピーダやルネサスは半導体事業というB2Bビジネスを生業としていますが、業績は悪いのです。
私が考えるに、これら業績不振事業の共通項は、以前成功していたビジネスモデルが今では既に成立しなくなっているのに、そのモデルを変更・修正できなかったということなのでしょう。
例えばシャープは、液晶テレビをはじめ様々な家電製品をB2Cビジネスとして展開しています。
もちろん他の家電メーカーと同じく、液晶ディスプレイパネルや部品をB2Bビジネスとして他社に供給もしています。シャープの業績不振の大半は、液晶テレビ事業です。
この状況を打開し、経営を立て直す戦略としてシャープが選んだのは台湾Hon Hai(鴻海)グループに頼ること。
非常に残念なことではありますが、B2Cビジネスで戦略を誤った結果業績が不振となり、新しい製品やビジネスモデルを打ち出すことなく白旗を揚げてしまったのです。
シャープが取った戦略は、巨大EMSを運営するB2Bの雄と手を組むことだったのです。
富士フィルムは市場の変化を素早く察知し、フィルムカメラ依存から脱却してデジタル化を急ぎましたが、同業の巨人コダック社はそれができずにとうとう倒産してしまいました。
現在、世界市場は中国の市場開放などで統合され、新興国の発展もあり、様相が変わってきました。市場が先進諸国から新興国にシフトしたのです。
同時に、技術的にもデジタル化によるB2C製品の製造への参入障壁がどんどん低くなってきています。似たような製品が世界中に溢れるようになってきました。
このような状況下では、市場原理として価格競争が起こります。にも関わらず、日本の多くの企業はこれまでの成功体験から「良いものは売れる」と高機能商品を作り続けてきたのです。
しかし、市場における消費者の要求は変化し、「良いけど高い」商品は売れなくなり、「安い」商品か、消費者にとってすごく魅力的な「高いけど良い」商品しか生き残れなくなったのです。
そして、この変化を見誤ってしまったのは日本の家電企業だったのです。自らの成功体験による良いものを作り続けたのです。逆に、新興国のメーカーは新しい潮流に乗ることで成長してきました。
市場原理は変わりません。消費者は自分たちの買えるものを買います。欲しいものを買います。買うものは、「安い」ものか、高くても「魅力ある」ものなのです。
消費者の中心は新興国へと移り、彼らはそこそこの性能で安くて使えるものを買い始めます。このとき日本企業は、十分にそれらを供給できませんでした。
今、日本企業はこの要望に応えようと海外に軸足を移しています。
ところがもう一つ、とても大事な消費者心理があります。例えば、新興国の人たちであっても、多くの若者たちがiPhoneを持っています。
彼らが持っているのは残念ながら日本製ではありません。価格的にはとても高いけれど、それでも少ない給料を貯めてでもiPhoneを買うのです。
アップルという「ブランド」を買うのです。かつてのMade In Japan のように…
アップル社は、製品の性能や機能を宣伝するのではなく、製品がもたらす体験を売ろうとしています。これがアップルのブランドを支えるひとつの戦略なのでしょう。
シャープにも、企業のブランド力という点では大きなものがあります。しかし、B2Cビジネスの立て直しではなく、自社の得意な技術を鴻海に供与する代わりに、鴻海に製品の販路を委ねるという決断を下したのです。
最悪の事態になる前に、シャープ自身の手でどうにかできなかったのでしょうか…
シャープは鴻海に落ち、B2Bに近い戦略をとりましたが、ソニーは「4スクリーン(画面)戦略」で、これまで通りのB2Cビジネスの戦略をとっています。
しかし、この戦略の意味は正直よく理解できません。テレビ事業が不振だから他のスマートフォン、タブレット端末、パソコンを含めて「4つの画面」で総合的にユーザーに使いやすい体験を提供しようとしているのでしょうが、具体的に何がどうというのがあまり見えてこないのです。
一方、2002年に日本市場に参入したサムスンは一旦日本から撤退します。日本の消費者はサムスン製の商品を、見た目は同じでも機能・信頼性・品質を同じと判断しなかったのです。
しかし今、スマートフォンではサムスンのギャラクシーが日本でも大人気となっています。こうした現象は日本市場のみならず、世界中にサムスンブランドが認知されてきているのです。
サムスンは「良いけど高い」ではなく、「高いけど良い」という微妙なさじ加減でアジア市場や世界市場で売り上げを伸ばしてきました。
その結果、「良いけど高い」と判断されたのは日本製品の方だったのです。
サムスンは今も、なりふり構わない広告宣伝をグローバルで続け、販売奨励金を積み上げています。彼らはブランドを手に入れるために、涙ぐましい努力を世界中で行っているのです。
まず最初に買ってもらえるブランドになること。これがサムスンが強烈に意識していることだと思います。
サムスンは、自社のブランド・イメージを今のグローバル化した世界市場にマッチするように作り上げてきました。
わき目も振らず強力に、そして迅速にそれを推し進めた結果が今のサムスンの姿なのです。
日本の家電が再び力を取り戻し、グローバルで一歩先んじるためには、新興国にはまだまだできない新しい製品がもたらす文化を提供していくこと。
例えば、一度スマートフォンを使うとそれが手放せないように、一度シャワートイレを使うとそれがない生活に戻れないように、今までにない新しい生活を提供する製品作りを推し進めていく必要があるのです。
2019年、パナソニックは画面の背後が透けて見える「透明ディスプレー」を採用した次世代テレビを日本国内で発売するようです。
すでに欧州で販売している高画質の「有機EL」を採用したテレビも、2017年度中には国内で発売する予定です。
2020年の東京五輪開催に向けた特需を見込み、新製品の投入を加速させていっているのです。
この次世代テレビは、画面が厚さ3ミリ程度のガラス状のパネルで、棚の扉や引き戸のガラス部分に取り付けることもできるようになっています。
普段はインテリアのガラスのように見え、必要な時に画面に触れれば、テレビ映像やインターネットの情報が表示されるのです。
従来のテレビのように置く場所に気を使う必要はありません。
2016年秋の時点では、年間の国内薄型テレビ販売台数で、パナソニックはシャープに次いで2位でした。
今後は、フルハイビジョンの4倍の解像度「4K」に対応するテレビなどとともに、次世代テレビや有機ELテレビを投入し、2019年度にも国内トップシェア獲得を目指しています。
その後、再び世界を凌駕していくことはできるのでしょうか?
ものづくり日本の底力を見せつけてほしいものですね。