プミポン国王の功績とタイが日本に学びたいこと



2016年10月13日、タイのプーミポン国王が死去されました。1946年の即位以来、在位70年と世界最長の君主だったのです。

プーミポン国王に対するタイ国民の深い敬愛の情を知る私にとって、「あ〜、一つの時代が終わったんだなぁ」と感慨深いものがあります。

 

タイが一貫して独立国家であり続けることができた背景には、間違いなく「国民から敬愛される国王と王室」の存在があります。

プーミポン国王は直接統治こそしなかったものの、タイが二分するような危機的事態に陥った際は必ず、国王自らが調停に乗り出し、事態を収拾してきました。タイにとって、国王は最後の砦でもあったわけなのです。

 

 

通貨危機を救ったプミポン国王

1997年7月、タイの通貨であるバーツが急落し、アジア通貨危機が起こってしまいました。

そもそもタイの通貨危機とは、ヘッジファンドがタイの通貨バーツを突如売り浴びせたため、バーツの価値が急落して起こったのです。

 

それまで、外資の流入による好景気に沸き経済成長を謳歌していたタイは、一夜にして巨額の富を失い、経済活動が収縮してしまったのです。

企業倒産が相次ぎ、大都市のビル建設は途中でストップ!多くの市民が職を失い、失業者が巷にあふれる事態になりました。バンコクのど真ん中に高層の幽霊屋敷が出現した光景はまさに悪夢そのものでした。

 

この金融危機の結果、独力での経済再建が不可能になったタイは、国際通貨基金(IMF)の管理下に入り再建を目指しますが、IMFの出した処方箋はタイに緊縮財政を強いる厳しいものでした。

当時、タイに続いて韓国・インドネシア・マレーシアも相次いで通貨危機に見舞われました。インドネシアではスハルト政権が崩壊、韓国では外資が主要企業や銀行を傘下に収めます。

 

タイにおいては、IMFに対する不満の声と自らの不甲斐なさに対する自嘲的世論の大合唱が巻き起こっていったのです。

この未曾有の危機を救ったのがプーミポン国王の言葉だったのです。

 

 

プミポン国王の教え「足るを知る生活」

タイの混乱危機を救ってきた敬愛されるプミポン国王

国王は、国民が陥った消費の過熱を戒め、農業の大切さを説き、人間生活の原点を取り戻すことの重要性を指摘します。つまり「足るを知る生活」の大切さを諄々と諭したのです。

近代化は必要ではあるけれど、伝統的な価値を忘れてしまったら生活は混乱するばかり。危機の時こそ伝統的知恵を思い出そうと国民に促したわけです。

 

タイはコメの主要輸出国であるほどに農業の盛んな国です。昔から、タイの人々は必要な分だけを消費し、身の丈にあった生活をしてきたのです。

プーミポン国王のメッセージを機に、タイの豊かさの源泉は農村にあることが改めて国民に認識されました。これにより、農村の大家族制が持つ生活保障機能の重要性が改めて認識されるようになったのです。

 

経済危機によって都市部で大量の失業者が出たにも関わらず、大きな治安問題が発生しなかった理由は、失業者たちの多くが生まれ故郷の農村に帰ったからでした。

大家族制度が失業者や老人たちの生活を下支えするセイフティーネットとしての役割を果たしていたのです。タイ国民の大多数は敬虔な仏教徒です。国王は、いわゆる近代経済学ではなく仏教の教えに基づく経済活動の在り方を訴えたのです。

 

あれから20年。タイの政情は、依然として安定には程遠い状況にあります。2006年に発生した軍のクーデター以来、タクシン元首相派と反タクシン派との抗争が、時には流血騒ぎを起こしながら現在も継続しています。

残念ながら、この抗争はもとをただせば利権争いなのです。

タイの治安悪化は反タクシン派の争い停止にかかっている

 
 

タイが日本から学びたいこと

タイの人々はこう考えています。

「生活水準を向上させるためにはさらなる近代化が必要だ。しかし、近代化を進めた結果、これまで生活の基盤であった地域共同体が崩壊の危機にある。」

「自分たちは仏教の伝統を守りたいし、仏教に基づく地域共同体の人間関係を大切にしていきたい。」

そこで日本に学びたいことが出てくるのです。

 

「日本は明治維新以降近代化と伝統を両立させて今日の繁栄を築いてきた。この両立の秘訣をぜひ教えてほしい」

 

この質問に対する一つの答えはこうではないでしょうか。

「外来のモノをそのまま受け入れるのではなく、自国の国情に合うように造り変え受け入れるということが大事」

今や日本の伝統芸ともいうべき「造り変える力」は安定期に入っています。タイの人々には、さらなる近代化を、タイの伝統文化に合うように造り変えていただきたいと思うのです。

 

仏教文化を大切にするタイの伝統を見失うことなく、発展していってほしいと心から願っています。プーミポン国王の死去に哀悼の意を表するとともに、将来タイがより魅力的な国になることを願ってやみません。

早く国内の混乱が解決しますように…