中国と密接なタイの「優先席」事情



タイには驚くほど多くの中国人が訪れています。日本への中国人観光客数が年間約960万人なのに対して、タイへは約1100万人!(2019年度)。これに加えてタイは中華系住民も少なくありません。タイ人は基本的に肌の色が日本人よりも褐色 (タイ族) なのですが、日本人っぽい (中国人の血が入っている) タイ人も結構います。1800年代以降、中国からの移民が多かったのです。

さらに言うならばタイ政府は移民の同化政策をとっていたので、マレーシアやシンガポールと違って中華系であってもアイデンティティはタイ人になっています。中華系タイ人が中国との貿易を行って両国の関係を深めたりしています。現在、タイでは日本旅行が大ブームになっていますが、日本以外で行きたい国を若い人に訊ねると「中国」という答えが返ってきます。どうやら、タイで放映されている中国のドラマが面白いことが一因のようです。日本ももっと「映画」「ドラマ」「音楽」などのエンターテイメントを世界中に発信していかないといけませんね。 

 

相思相愛のタイ人と日本人

日本旅行がブームとなっているタイですが、逆にタイを訪れる日本人も多くいます。日本人がタイを好む理由はいろいろありますが、特に「食べものが美味しい」「観光スポットが多い」「常夏」「距離的に近い」ことが挙げられます。さらには、「タイ人の気質がいい」こともプラスに働いています。おおらかで親切で優しいタイの人々。ベトナムやカンボジアと環境がよく似た国ではありますが、タイはやはり「微笑みの国」なのです。見ず知らずの人でも、目と目が合えば優しく微笑んでくれます。

 

 

「電車で席を譲る」のは当たり前

タイではBTS (電車) が1999年12月に、MRT (地下鉄) が2004年7月に開通しました。当初は敷設距離が短く料金が割高だったため乗客が増えず、赤字運行が続いていました。しかしながら現在は延伸工事が着々と進み物価が上がってきたことなどから、朝夕はラッシュになるほど混雑しています。そんな電車や地下鉄の車内では、常にタイ人が席を譲り合っている姿が見られます。タイでは、混雑した電車に小さな子どもやお年寄りが入ってくると、ドア付近の人たちがすぐさま席を立って譲ることが当たり前となっています。譲り合いの精神…素晴らしいですね。

 

 

「バス」の劣悪さが譲り合いの背景に

バンコクにBTSが登場する以前は、公共の庶民の足と言えばバスでした。エアコンなし、エアコン付きなどいろんなタイプがあって、経済レベルによって使い分けることができました (運転マナーが酷いのは今も昔も変わりません)。できるだけ手当を多く得ようと、人を大量に乗せます。ドアを閉めずに走行することもしばしばです。死亡事故は起こって当たり前の環境とも言えるでしょう。そんなバスに老人や子どもたちが乗れば、まず立ってはいられません。そこで若者たちが率先して席を譲る文化が育まれていったのかもしれません。

 

 

タイならではの「優先席」シール

BTS車内の優先席には日本同様、「老人」「妊婦」「ケガ人」「身体が不自由な人」「子ども」の絵が描かれています。しかしそこには「僧侶」まで描かれています。タイは敬虔な仏教徒が多いため、とても大切な存在なのです。だからこそ、僧侶も優先席に座らせます。これはバスも同じで、昔から僧侶の優先席がありました。 そんなタイの僧侶たちには女人禁制という事情もあります。たとえ自分の意思でなくとも女性に触れることは許されていません。なので周囲が配慮して彼らを席に座らせるのです。

 とはいえ優先席ステッカーが2019年からあまりにも大きくなったことで、どんなに混んでいても優先席だけが空いていることが多くなりました。「必要な人が来たら譲ればいい」「そうでない場合は誰かが座ればいい」とも思うのですが、気持ち的に座りにくい状況となっています。中には老人なのにこの席を避ける人さえいます。義務やルールよりも、本来持っているタイ人の善意に任せていた方がなんら問題なく回っていたような気もします。