移住を前に考えるべきタイの年金制度【まとめ】



タイでは、働いている人の3人に2人がいわゆる「非正規労働者」です。この人たちは最低賃金にも社会保障制度にも守られていません。

高齢化していくタイ社会において、老後の保障「老齢年金」のあり方が今問題になってきています。そこで今回は、タイの年金制度についてまとめてみました。

 

東南アジアの中では進んでいるタイの公務員年金制度

東南アジア10カ国から成るASEAN (東南アジア諸国連合) は、1967年の「バンコク宣言」によって設立されました。当初はタイ、インドネシア、シンガポール、マレーシア、フィリピンの5カ国でスタートし、現在はこれにブルネイ、ベトナム、カンボジア、ミャンマー、ラオスが加わり、計10カ国となっています。

これらの国々は2008年の金融危機後、(中国やインドと並んで) 停滞するユーロ圏などの先進国に代わって世界経済の牽引力となっています。中でもタイは、「社会保障」「年金制度」の充実に積極的に取り組んでいます。

 

2011年の総選挙では、貧困層を基盤とするタクシン派のタイ貢献党が過半数を獲得し、民主党に代わって政権をとることになりました。30バーツ (90円) 診療で知られる「ユニバーサル・ヘルスケア」国民皆診療制度を始めたのも、2001年にできたタクシン政権でした。

 

タクシン (右) とインラック (左) の元首相兄妹

 

この国の社会保障 & 公的年金制度は1990年代後半に現在の形ができ上がりました。それ以前 (1902年〜)は、国のために働く公務員に対してだけ、全額税負担の年金制度が運用されていました。さらに公務員年金を充実すべく1997年に再編成。

この年金制度は強制加入のDC (確定拠出) 型で、
職員が給与の3%を拠出し、雇い主である政府が5%を拠出し運用されています (運用ポートフォリオは国内債中心ですが、多様化しています)。

 

 

民間企業の従業員には…

民間企業の従業員には、1990年に発足した老齢年金制度「SSF」 (社会保障基金) があります。この強制加入の公的年金制度は、タイの社会保険パッケージ(医療・失業・老齢)の一環を成しています。

老齢年金への拠出は従業員・企業が給与の3%ずつですが、パッケージとして合わせて給与の5%ずつ徴収されます (ときに、洪水被害やらで4%に減額されることもありますが)。

 

タイの社会保障法における保障対象は、負傷・疾病・妊娠・労災・死亡・児童福祉・失業、そして老齢年金です。1名以上の社員を有する会社は社会保障制度への加入が義務付けられており、保険料として賃金の5%(最高750バーツ:賃金1万5000×5%) を会社と社員それぞれが同額負担します。

 

 

これに加えて、政府が年金に1%、その他も合わせて2.75%を拠出しています。この老齢年金は、タイの非農業労働人口2,250万人の4割にあたる925万人 (民間企業の従業員) が対象になっています (運用は保守的で、主にタイの国債で運用されています)。

このDB (確定給付) 型年金は日本と同様賦課方式で運用されており、15年以上の拠出 (保険料支払い) 実績で現行55歳からもらえるようになっています。ただし、給付額は最終給与の2〜3割ほどと安く設計されていますので十分ではありません (死ぬまで支払われることにはなっています)。

 

(年金の受給に満たない期間、保険料を支払った者に対しては、年金一時金として一定額が一度に支払われます)。

それでも、タイは核家族化が進んだ日本と違って大家族制のため、家族から面倒を見てもらうことが多く、これで十分のようです。

「もっとほしい」という方のために、この老齢年金に加えて、企業の従業員向け (一部公務員向け) である任意加入 (上場企業は強制) のDC型私的年金である職域年金「プロビデント・ファンド」(老後基金) が導入されています。

 

 

そして2015年

国民年金基金「National Savings Fund」がスタート。自営業者、農業生産者、タクシー運転手といった年金制度のない「インフォーマル・セクター」が対象で、タイの労働力人口(15〜60歳)3810万人のうち、約3000万人が制度適用者です。

この年金制度は、加入対象者から月額50バーツ以上(年間で最大1万3200バーツ以下) を受け取り、60歳から支給するという仕組みです。

 

 

現在、タイの国民貯蓄率は1・2%とかなり低く、加えて家計債務はかなり高い状況です (家計にあまり余裕がない)。否が応でも、将来の国民生活を不安視せざるを得ません。そんな中、同制度が救世主と呼べる存在になるといいですね!

国民の間からは、「本当に永年的に続く制度なのだろうか?」「生活困窮者が、果たして将来を見越し、毎月きちんと納付するのだろうか?」と制度の存続性を危ぶむ声も聞こえてきてはいますが・・・

 

 

現在は良好なタイの年金制度ですが…

タイでは、2012年に年金のカバー率が拡大され、2014年に老齢年金の支給が開始されました 。タイでは、老齢年金制度 (SSF ) が年金制度の柱となっています。

タイは、日本や欧州諸国に比べるとまだまだ人口構成の若い国ですが、アジアの中では (特にフィリピン・インド・インドネシアなどの若い人口構成の国々と比べると) そうでもなく、すでに中国と同等の「中年国」です。

 

現在、タイの年金制度はうまく運営されていますが、このまま高齢化が進んでしまうと2026年には支給額が拠出額を上回るようになり、2049年にはファンドが底をつく…とも言われています。

おそらく、日本同様、支給年齢の引き上げや拠出増など、制度の改革が必要になってくるでしょう。

 

 

タイの年金制度 (まとめ)

以上のように、タイの年金制度では「公務員」と「民間企業の従業員」を合わせて1,300万人ほどがカバーされていますが、これは農民を含むタイの全労働者3,850万人の3分の1に過ぎません。

農民・自営業者・非正規従業員など計2,500万人ほどは、この公的年金の蚊帳の外・・・(形式上は非正規従業員もSSFでカバーされていますが、割に合わない仕組みなので1.6%ほどしか入っていません)。

 

 

「蚊帳の外」の人たちは、自分で年金型保険に加入したり「退職投資信託」を毎月買ったりして老後に備えなければなりませんが、そんな面倒なことに余裕を向けられる人はほとんどいません。

今後は、こうした公的年金カバー漏れの人たちを対象に、何かしらの制度が導入されることになるでしょう。政権が安定してから…になるとは思いますが。

明日のことはあまり気にしない国民性の国ですが、公的年金制度の充実には少しずつ力を入れてきているようです。先進国の成功 & 失敗例を参考に、公私の年金制度は今後拡大していくことになるでしょう。

 

 

日本とタイの比較

日本の社会保障制度は、タイのものに加え、高額医療費の負担や介護保険の制度が整い、タイより格段制度が充実していると言えるでしょう。

ちなみにタイでは、社会保障を使って病院に行った場合、長いこと待たされて簡単な診察と安価な薬を少量出されてそれでおしまいです。 保障としては不十分なため、企業が従業員のために福利厚生の一環で民間の医療保険に加入させるケースもあるくらいです (日系企業の半分は、これに加入しています)。

 

 

年金保険 & 積立保険について

日本人がタイで暮らす場合、「日本よりも様々な選択肢があるので恵まれている」という意見もあります。タイでは、日本人であっても正規ビザを取得すれば年金型のような極めて貯蓄性の高い保険契約を締結することができます。

そして、加入後は日本に帰国しても他国に移っても、契約を継続することが可能です。実際、投資目的で帰国前に加入される方も少なくないようです。保険料・利回り・法的保護などを総合的に比較すると、それらの年金保険や積立保険は、タイの方が日本よりも遙かに「安心で手堅い」と言えます (タイで加入して満期後に日本で受け取ることも可能です)。

 

 

例えば、Aという積立型生命保険では、35歳前後の方が年間12万バーツ(約32万円)を20年間積み立てた場合、20年後の満期時には積立総額の最大280%くらいにまで増えています。積立総額640万円が、約1790万円になっているという計算です。しかも非課税。

このように、タイでは保険料が安く金利が高いので利回りがとてもいいんです。なにより一番大切なこと。それは、タイの年金型保険は必ず100%契約通りに受け取れるということです。

 

日本では、将来「「自分が歳をとった際いくら貰えるかわからない」「本当にもらえるのか?」といった不安から、国民年金の不払いが急増してきています。

これに対してタイでは、金融庁の関連機関であるOICが保険料の一部をプールし独自に運用、そして契約者保護のために準備金として備えています。法律でもしっかり保護されており、万が一保険会社が支払えなければ、OICから支払われるようになっています。

 

 

タイの現状

タイ人はよく、「お金の使い方・貯金・投資といった基本的な知識が乏しい」などと言われています。そんな状況下、「簡単にローンが組めてしまうため、借金がどんどん膨らむ」とも。。。

一方で、貯蓄率は低迷し続けています。この背景には、前政権のバラマキ景気刺激策 (減税措置) に心躍らされた国民の多くが無理なローンを組んだことが挙げられています。

日本でも、消費税増税の度にバラマキが。。。我がこくの方こそ「大丈夫なのか?」と考えさせられます。

 

 

まとめ

現在タイでは、近代化 (都市部での生活コスト上昇) と高齢化がどんどん進んでいっています。日本同様、将来的には老後の年金制度に不安がよぎってしまうのも致し方ありません。

それでも、タイでは家族 & コミュニティーが相互に助け合うことを大事に考えているため、(国が社会保険制度の見直す一方で) この価値観のもと、たくましく高齢化社会を生き抜いていくことでしょう。

 

タイでリタイヤメントビザを取得して暮らす日本人の主な財源としては、「日本の年金」「不動産などの資産運用益」「預貯金」などになるでしょうが(リタイヤメントビザではタイで就労できません)、

中にはタイで一定期間就労した後タイで定年され、タイの年金を得ている方もいらっしゃいます。 タイへの移住を検討されている方は、これを機に御自身の老後ライフプランを真剣に考えてみてはいかがでしょうか。