タイの社会保障制度【まとめ】



「微笑みの国」タイランドにおいて、2018年は社会保障制度の大きな転換期となります。日本と同じ…ではありませんが、(公的) 厚生年金が導入されるのです。

「退職金積立基金!2018年度から強制加入開始へ!」という流れです。福利厚生制度は国によりまちまちで、その法規・税制はいつも変化しています。それはタイにおいても同じ。

 

現在 、タイの退職給付制度には長期勤続者が定年退職等した場合に一時金を支払う退職手当制度(Legal Severance Payment Plan) というものがあります。

これは強制適用の制度で、このほか、確定給付年金 (DB)や確定拠出年金 (DC)を企業が任意で提供しています。導入は任意ですが、いざ導入した場合には給与の2%の拠出を労使それぞれが求められます(最大拠出率は労使それぞれ15%)。

 

これに対して、強制適用される新たなDCでは、事業主と従業員の双方がそれぞれ給与の3%を最低拠出するルールになります。そして、拠出率は徐々に引き上げられ、10年目までに10%に達することになります。

掛金算定に用いられる給与には上限があり、60,000タイバーツ (約19万円)までの月額給与に対して掛金が算出される予定です。

 

一方、10,000タイバーツ(約3万円)以下の従業員については事業主拠出のみが求められます。制度の実施主体は政府管轄の組織または民間の運用会社となる予定ですが、具体的なことはまだはっきりとはしていません。

タイで生活をしていく中で、風邪を引いたり体調を崩したりすることもあります。タイと日本の市販薬は違いますので、できることならちゃんと病院にかかって薬を処方してもらいたいでしょう。

 

日本では「国民健康保険」などがあるので安心して病院にかかることができます。しかし、タイではどうすればいいのかと不安に思う方も多いのではないでしょうか。

そこで今回は、タイで安心して暮らしていくために必要な知識、「社会保険制度」についてまとめてみました。もちろん、今後変更の可能性もありますが、まずは現状を正しく把握しておきましょう。

 

 

タイの社会保険制度

 

 日本に国民健康保険や社会保険があるように、タイにも保険があります。ただ、タイの保険は仕事をしている人が加入できる社会保険のみで、国民健康保険にあたるものはありません。

タイ語で「プラカンサンコン」と呼ばれるこの社会保険、タイで仕事に就けば必ず加入することになります。タイ人であっても外国人であっても、一般従業員全員に加入の義務があります。

 

個人負担額は給与の5%、日本人ならば上限の750バーツになるでしょう (会社も同額負担します)。ちなみに以前私が勤務していた会社では、全額会社が負担してくれていました。

このように、タイでは保険料を全額負担してくれるところも少なくありません。ただし、日本とは異なり保険適用の対象者は加入者本人のみ。扶養家族は対象外です。

 

加入者は、通院や手術が無料になるほか、年金や失業保険の制度を利用することもできます。これだけ聞くととても優れた制度のような気がしますが、日本人が実際にこの社会保険制度を利用することはほとんどありません

なぜなら、「システム」や「条件」の問題があるからです。

 

 

 

民間の医療制度

タイの社会保険に加入する際は、指定の病院を決めることになっています。指定の病院であれば、通院でも手術でも無料で治療や診察を受けることができます。

ただ、ここで選べる病院は社会保険制度に加入している病院のみ。つまり、タイのローカル病院のみです。一般的に、日本人は日本語や英語で診察を受けることができる病院にかかる人がほとんどです。

 

それらの病院は高級で、医療水準がかなり高いと言われています。ですが、残念ながら社会保険ではそのような私立病院は選ぶことができません。ローカルな病院でも気にしない人なら問題ありませんが、やはりタイ語で診察を受けるのは不安です。

一方で、会社によっては指定の私立病院での診察であれば治療費を全額負担してくれるなど、独自の医療制度を福利厚生として取り入れている会社もあります。

 

それでも、タイで働く多くの日本人は、会社負担か個人負担で民間の医療保険に加入する人がほとんどです。

もちろん、医療保険でカバーできる額は保険のグレードによって異なりますが、年間の保険料が2万バーツ前後のものであれば、私立病院にかかる時でも安心です。

 

 

 

タイの失業保険

タイの社会保険に加入すると、失業した時に失業保険を受け取ることができます。条件は、継続して6ヶ月以上保険料を払っていること。

もしくは直近の15ヶ月以内に計6ヶ月以上の保険料を払っていること。他にも、ビザや労働許可証について厳しくチェックされます。

 

受給額は、退職した理由で異なります。会社都合で退職した場合は給与の50%が最高180日分支払われます。個人の都合で退職した場合は給与の30%、最高で90日分と受給額もぐんと減ります。

ただし、上限は7500バーツと決まっていますので、給料が5万バーツだったからといってその半分をもらえるわけではありません。

 

 

 

タイの年金制度

 

満55歳以上でタイで仕事をしていなければ、年金を受け取ることもできます。年金の額は社会保険に加入した年月や、駐在員であったり現地採用であったりで異なります。

納付期間が15年以上ならば年金を毎月受け取ることができ、15年未満であれば一括で受け取ることになります。実際に受け取れる金額は計算しないとわかりませんが、微々たるもの…であることは間違いありません。

 

 

 

渡航後の「国民年金」について

国民年金は、厚生年金保険や共済年金の加入者(第2号被保険者)や第2号被保険者に生計を維持される配偶者(第3号被保険者)ではなく、かつ「日本国内に居住する20歳以上60歳未満の者」に適用される年金制度です。

従って、海外居住者は本来加入資格がありませんが、現行の法律では「日本国籍を有する者で海外に居住する20歳以上65歳未満の者」は任意加入することが認められています。

 

タイで勤務中の方も、任意加入で保険料を収めていればその分が年金額の計算対象となります。ただし、保険料が月1万5千円程度と考えると、タイの物価からすると非常に高額になりますね。

では、任意加入しないとどうなるでしょうか。老齢年金は合計25年間保険料を納めないと受給資格が得られないと思っている人がほとんどですが、実は海外居住期間は「合算対象期間(通称カラ期間)」と言って25年間に充当することができます。

 

任意加入しないと将来受給できる年金額はもちろん減ってしまいますが、海外居住「期間」は無駄にはならないということです。

海外居住期間は、パスポート等での証明が必要ですので、有効期限が過ぎてもパスポートは必ず保管しておきましょう。

 

また、渡航前に適切な手続きを取っておかないと、日本国内に居住しているものとしてそのまま保険料や税金を課されることがあります。

渡航が決まった際には、必ず住所を管轄する役所で相談の上、必要な手続きをご確認ください。

 

 

 

まとめ ☆

以上、タイの「社会保険」「医療」「年金」「失業」制度について簡単に紹介してきましたがどのような印象を持たれましたでしょうか?

この他にも、冒頭で少し紹介しましたように、2018年度から新たな制度が導入されます。タイ財務省によれば、まず2018年に従業員数100名以上の企業に対してDCの強制加入を実施し、その後7年かけて段階的に全企業を強制加入の対象とする計画のようです。

 

事業主の方は、最低拠出率が2%でなく3%に引き上げられる可能性もありますので、現状の財務状況から変更が余儀なくされるかもしれませんね。

そして従業員として働いていらっしゃる方の場合、55歳になった時にタイにいるかどうかはわからないでしょうが、こうした制度の変更は頭の片隅に置いておきましょう。

 

ざっくりとした「制度」の内容だけを聞くと、日本よりも優れているような気もしますが、これはあくまでタイ人のための社会保険制度です。日本人にとって安心できる制度ではありません

というわけで、医療保険に関しては個人負担してでも別途きちんと加入しておきたいものです。そして、「社会保険の個人負担額は掛け捨てだ」と思っていた方がよさそうですね。