ニュースなどでは少数民族として紹介されるクルド人ですが、その実、人口は多く、中東ではアラブ人・トルコ人・ペルシャ人 (イラン人) の次に多いのです。
クルド人はイギリスが勝手に設定した国境によって分断され、そのせいでそれぞれの国で少数派となり辛い生活を強いられているのです。
例えば、サダム・フセイン元イラク大統領は、クルド人を制圧するために、化学兵器を用いたことはよく知られています。
現在、クルド人はトルコ・イラク・イランに多く住んでおり、その3国のクルド人たちは独立または自治権を得ようと運動しているのです。
過去には、オスマントルコが厳しい弾圧を行い、彼らの民族運動は食い止められました。
そして現在…
トルコ南東部の、シリアとイラク国境近くの町ジズレでは、トルコ治安部隊に包囲された建物の地下室と電話で繋がる度に数々のうめき声が聞こえました。
(少数民族ということにされている) クルド人たちの町ジズレは、2015年末から79日間もの長きに渡り、武装勢力クルド労働者党を掃討する名目で、治安部隊に封鎖され、多くの市民たちが犠牲になりました。
この状況に対して、現場の人道危機をツイッターで発信し続けた国会議員のファイサルさん。
フォロワー数は13万人にのぼったものの、国際社会は沈黙…無視…
なぜこの問題が無視されているのかというと、
難民問題や過激派組織「イスラム国」(IS) との戦いで、トルコ政府の機嫌を損ねるわけにはいかないからです。
対テロ戦争の狭間に埋没した人々に助けは来ませんでした。。。
結局、乳児を含む250人余りが死亡。うち、地下室に逃げ込んだ半数以上が治安部隊の火で焼き殺されてしまったのです。
裕福な家庭で育ったファイサルさんは、幼い頃からトルコ政府によるクルド人弾圧を見てきていました。
2009年、市議会議員に当選するも「テロ組織幹部」との濡れ衣を着せられ逮捕。未決のまま2011年、獄中から総選挙に立候補し当選。
それから2年半、ようやく釈放され、2015年の総選挙でクルド系の国民民主主義党の議員となりました。
そのファイサルさんのツイートも虚しく…
2015年夏、トルコ政府とクルド労働者党が進めていた和平交渉は決裂…
これにより、9月には外出禁止令が出されたジズレ。子供を含む一般市民20人ほどが「テロリスト」として射殺されたのです。
愛する故郷ジズレに入ってくる戦車や装甲車などを食い止めようと、「人間の盾になる」と立ちはだかる非武装の若者たちもいましたが…
民家への絶え間ない砲撃…
スナイパーによる銃撃…
これらの攻撃により、死者・負傷者が続出。このような状況の中でも、警察の許可がなければ救急車を呼ぶことすらできません。遺体も埋葬できません。
ファイサルさんはこのような状況を随時ツイッターで発信し続けましたが、治安部隊の攻撃は容赦なく続きました。
2016年1月、白旗を掲げ、遺体回収と負傷者搬送をしていたファイサルさんたちに治安部隊が発泡します。
このように、次々と一般市民がヤられても、半国営のテレビ局は「交戦でテロリストが死亡」としか報道しないのです。国際社会も然り…
ファイサルさんは怒りが収まりません。
「真実に沈黙する人々は恥の中で生きていくことになる!」
国家を持たない世界最大の民族とされるクルド人は、トルコやイラン、シリア、イラクなどに住み、総人口は3,000万人とも言われています。
トルコ治安部隊による掃討作戦は、クルド人が多い南東部の数都市で現在も行われているのです。背景には、アメリカがイスラム国を叩くために支援したクルド人組織の勢力拡大があります。
分離独立を目指すクルド人たちの勢いが増したことに、エルドアン政権は脅威を感じたのでしょう。
ファイサルさんは2016年6月、ドイツの法律家たちと共に、エルドアン大統領らを「戦争犯罪」「人道に対する罪」でドイツ連邦検察庁に告発しましたが、トルコ政府は国連などによる現地調査すら許可していない状況なのです。
こんな悲惨な状況下においてもなお、地下室に隠れ潜むクルド人たちは必死の思いで携帯電話を使い、クルド系のテレビに出演し、切々と訴えます。
瀕死の子、血と遺体、絶えた飲み水、そして「我々は戦闘員でもテロリストでもない」ということを…
しかし、エルドアン大統領は「地下室に負傷者などいない」の一点張り。おまけに、ファイサルさんらが欧州議会や国連に出した手紙には全く反応がありません。
そうこうしている間にも、治安部隊は複数の地下室に火を放ちます。これらの地下室からは、最後の声や悲鳴がテレビ局や議員仲間たちの手によってしっかりと録音されています。
「あまりにも残虐すぎる!」
「なぜ誰も救いの手を差し伸べようとしないのか?」
「虐殺が行われているというのに…」
しかし、それでも、
世界は沈黙し続けているのです。
地下室跡からは、数百の黒い袋が運び出されます。頭部や腕など、炭化した遺体です。
ファイサルさんは滞在中の欧州でこう語っています。
「人間があれほど残虐になれるなんて…」