近年、日本の「人口減少」が様々な方面で大きな社会問題となり始めています。その背景にあるのは「出生数」の低下です。出産期の女性人口が減少し、さらに、1人の女性が生涯に産む子どもの数も大きく減少を続けているのです (2019年度の出生数は90万人割れ)。2016年に100万人を下回ってからわずか3年で90万人を割る事態となってしまったのです。
こうした「出生率の低下」は何も日本だけで起こっている現象ではありません。欧米はおろか、韓国・台湾・香港・シンガポール・タイといったアジア諸国でも起きているのです。いったいなぜ、女性たちは子どもを産まなくなってしまったのでしょうか?フランスのように出生数を伸ばした国もありますから、一概に「豊かになったから」という理由だけでは説明がつきません。
団塊ジュニアの出産期はほぼ終了
「団塊ジュニア」(1971〜1974年生まれ) 世代 が40代後半となってきている今、出産期の女性人口が大きく減少したことの意味は非常に大きいと言えるでしょう。ちなみに団塊ジュニア世代は第2次ベビーブーム世代とも言われ、ピーク時の1973年には年間210万人が誕生しています。
さらに参考までにいえば、(ジュニア世代の親の代である) 「団塊世代」のピーク時である1949年には270万人が生まれています。以前から「団塊ジュニアの出産期」後の人口減少は心配されていましたが、ここに来ていよいよ出生数の減少という形になって表れてきたと言えるでしょう。
第三次ベビーブームは幻に…
日本の「合計特殊出生率」は2005年の1.26人を最低に少しずつ改善されてきました (数年前には1.45人にまで上昇)。その原動力となったのは「団塊ジュニア」とされています。しかしながらその後は下落を続けており、ついに2018年度は1.42人にまで下落。実際のところ、団塊ジュニア後の出産適齢期を迎える女性人口は大きく減少しているのです。
● 40歳代 …… 907万人
● 30歳代 …… 696万人
● 20歳代 …… 578万人
出生数が100万人を割ったのは2016年。厚生労働省の推計で「2021年に90万人を割り込む」はずだったのですが、2年も前倒されて2019年に90万人割れとなるのです。そして、期待されていた第3次ベビーブームは幻に終わってしまったのです。
バブル崩壊後の「失われた20年」時代を結婚適齢期 (20代) にいた団塊ジュニアたちは、経済的な問題から「結婚できない」「結婚しても子どもをつくらない」「産んでも1人」といった状況となり、第3次ベビーブームは幻となってしまったわけです。このことが「少子化」の最大の要因とも言えるでしょう。ちなみに、第1子を産む母親の平均年齢は30.7歳 (2018年) となっており、過去最高水準を更新しています。
就職氷河期世代へのサポートは無駄?
遅まきながら「就職氷河期」(バブル崩壊後、新卒の就職が特に厳しかった時期に社会に出た人たち) 世代に対するサポートが「少子化対策の一環」として開始されました。「経済的に余裕ができることが結婚できる最大の要因である」と考えたからなのですが、あまりにも短略的であり遅すぎの感が否めません。
現状を考えると、適度にサポートを行ったとしても家庭が経済的に潤うことは難しく、「結婚後も夫婦ともに働く」と考える人たちが減少することはありません。なぜなら、経済的に共働きをする必要があるからです。つまり、結婚しても「経済的に共働きを強いられる」人が多いのです。そもそも、結婚どころではない経済状況の人が多く、仮に結婚したとしても子どもを2〜3人もうけるような状況ではないのです。
遅きに失した感は否めませんが、90万人を割った出生数を考えたとき、この就職氷河期世代の人々の生活レベル全体をいかに上げるか、その下の世代の結婚・出産数をいかに上げるかは大きな課題と言えるでしょう。また、バブル崩壊のなかった海外でも「少子化」が起こり始めているという現実にも目を向ける必要があります。
アメリカも人口減少時代に突入?
「世界人口推計2019年版」によると、2010年以来人口が1%以上減少している国と地域が27に及ぶそうです。しかもこうした人口減少は今後さらに進むと想定されています。2019〜2050年にかけては、55の国と地域で人口が1%以上減少すると予想されています。内26の国と地域では10%以上の人口減少になる可能性が指摘されてています。たとえば中国ではこれからの30年間で人口が3140万人 (約2.2%) 減少すると予想されているのです。
ちなみに日本は今後10年間で「移民が増えて人口減少を部分的に緩和する」ことが見込まれています。いずれにしても世界は今「人口減少」に直面し始めているのです。人口面で優等生だったアメリカもその1つ。2018年度の出生率は史上最低を記録しました。アメリカでも日本同様、第三次ベビーブームとはならない状況と言われています。参考までに、主要国の「合計特殊出生率」は以下の通りとなっています (2017年)
● フランス …… 1.90人
● スウェーデン …… 1.78人
● 英国 …… 1.76人
● アメリカ …… 1.76人
● ドイツ …… 1.57人
● 日本 …… 1.43人
● イタリア …… 1.32人
アメリカの特徴は、ほかの国よりも比較的結婚年齢が早いものの、若くして子どもを持ちたいと思う意識が薄れつつあるようです。その背景にあるのが、日本同様「経済的不安定」と言われています。
アメリカは日本以上に労働者に厳しい環境で、「いつクビを切られるかわからない」と皆怯えているのです。育児補助金・育児休暇を取りやすい環境も整備されておらず、加えて、若い世代が大学進学のための学生ローン、結婚してからの住宅ローンの返済などに追われています (借金漬け)。
アジアも少子化へ
世界の人口は、「2050年に97億人に達したあと2100年頃に110億人で頭打ちになる」と予想されています (現在は77億人)。この「人口爆発」はアフリカ諸国によるところが大きいでしょう。世界的な規模で見れば、「人口減少」よりも「人口爆発」の方が深刻なのです。
「少子化は先進国特有のもの」と考えられている中、そうとも言えない現象が起こり始めています。それは、アジア諸国での「少子化」。。。
例えば、
●シンガポール …… 1.16人
●韓国 …… 1.05人
●香港 …… 1.13人
●台湾 …… 1.13人
●タイ …… 1.47人
●日本 …… 1.43人(2018年)
といった具合です。アジア各国の「合計特殊出生率」が極めて低い状況にあるのは、近年の著しい経済成長の副産物 (女性の社会進出など) によるものなのかもしれません。そこには、日本とはまた違った意味での「少子化」の原因があるはずなのです。この原因をきちんと抑えなければ、改善させることは難しいと言わざるを得ないでしょう。
格差がもたらす社会不安が「少子化」の原因?
「少子化」の背景には、
① 経済的な事情 (教育費の高騰・格差社会)
② 結婚・出生率の低下 (晩婚化・晩産化)
③ 子育て支援の不備 (待機児童問題など)
④ 少なく産んで大切に育てる意識の浸透
などが挙げられますが、その一番の根本には①の比率が大きいのではないでしょうか。格差がもたらす社会不安 (貧困問題) が背景にあるのです。リーマンショックを機に (21世紀に入って) 世界はより厳しい「格差社会」へと突入しました。「子供を産み育てるのが難しい」社会の到来です。
世界では、わずか数十人の人たちの富の99%を支配しているとも言われています。なぜこんな社会になってしまったのでしょうか?
おわりに
日本はこれから、世界でもトップクラスの人口減少時代に突入するそうです。中でも東京の合計特殊出生率は最も低く、1.21人となっています (2017年)。逆に沖縄は1.94人と最も高くなっています。この現実に、少子化対策の秘策が隠されているのかもしれません。
少子化を何としても阻止したいのであれば、大都会から地方への人口流出を促す「地方重視の政策」に切り替えるしか方法はないのかもしれません。