「新型コロナウイルス」対策で見習うべきシンガポール



新型コロナウイルス (COVID-19) の世界的感染拡大を受け、シンガポール政府は「海外からの流入」と「市中感染のリスク軽減」のために様々な対策を講じてきました。さらに、刻々と増す世界的感染状況の悪化に伴い「防疫措置を強化」し続けています。2002年に発生したSARS (重症急性呼吸器症候群) (中国が発生源) の経験を生かして早い段階で動き出すことができたのです。

シンガポールは、同じような事態が発生した際の経済的コストを抑えるために「将来に向けた投資が必要だ」と考え準備を怠らなかったのです。新たに「旅行制限の枠組み」と「公衆衛生の社会基盤」を整備しました。そして2009年。今度は新型のインフルエンザである「豚インフルエンザ」(メキシコが発生源) が流行したのです。このときシンガポールはSARSで学んだことを対策に活かそうとしましたが、封じ込めは困難で失敗に終わります。ここでさらなる教訓を得たのです。

 

既に準備できていたシンガポール

三度目の正直と言うべきでしょうか。新型コロナウイルスがやって来たとき、シンガポールは準備が整っていました。すかさず厳しい旅行制限を設け、病気になった人を特定するプロトコル (取り決め) を実行しました。これによって、感染者を支援しながら接触者に辿り着くことができました。こうしてシンガポール政府は、「検査を受けた人の数」「その人たちがいた場所」「ウイルス対策」などの様々な情報を公開したのです。

 

 

素早く動いたアジアの国々

これに倣ったアジアの国々は、「イベントの中止」「学校閉鎖」「自宅待機」などの厳しい社会距離戦略を実行。「人と人との距離をとって接触機会を減らす戦略」を打ち立てたのです。その結果、こうした国々では中国やイタリアと比べて感染者数・死者数が抑えられているのです。これは公衆衛生の専門家たちが指摘する「流行曲線の平坦化」です。つまり、感染者数の急上昇を抑えることで重症患者数の急増を時間的に遅らせ、医療機関の過度な負担を回避しようとしているのです。

ある専門家によると、シンガポールなどいくつかの国では「新型コロナウイルスの遺伝子配列が公開されるとすぐに独自の検査方法を開発し、検査に必要な物質の生産を増加させた」としています。また、WHO (世界保健機関) の反対を無視して入国管理の制限を実施したことも大きかったようです。また一部の国では制度を変更し、国民が検査費・治療費を払わなくて済むようにしました。

 

 

ちなみに台湾では…

台湾では「国民健康保険」と「入国管理データベース」を組み合わせて、旅行者の感染確率に基づいた自動警告発動体制を構築。また、マスクなどの価格に上限を設け、軍関係者を動員して生産量を拡大させました。

 

 

SARSの経験

新型コロナウイルスの主な症状の一つは発熱です。そこでシンガポール国民は、「会社」「学校」「スポーツジム」「政府機関」といった場所で体温測定を受けることになっています (平熱でシールを1枚もらえ、毎日2~3枚もらうことを奨励しています)。さらに、エレベーターに乗るたびに『すべきこと』の通知が目に入るようになっています。出かけると、どこに行っても情報が提供される仕組みも見事に構築されています。この情報や政府の声は信頼されており、国民は素直に従うことができるのです。なお、シンガポール政府は失業手当のない職種に従事する国民に少額の援助を実施し、逆に規則を破る国民には罰金を科しています。彼らは特別なことをしているわけではありません。国と国民が一体となって最善を尽くしているだけなのです。

 

 

優れている医療制度

シンガポールの医療制度は、たとえば中国・湖北省のそれと比べるとずっと優れています。湖北省では、初期の段階で医療施設がパンク状態に陥りました。中国で起こった事態を踏まえて、アジアの他の国々は体制を整える時間を得たとも言えるでしょう。シンガポールをはじめ、香港・台湾・韓国などは、かつてのアウトブレイク (集団感染) の経験から、医療体制をしっかりと構築してきていました。さらにその体制を維持し続けています。欧米では多くの国民がシンガポールのようなアプローチに賛同しており、そうした手法がうまく機能してほしいと願っています。

 

 

おわりに

世界中の国々は、それぞれに異なる社会構造・伝統・文化を持っています。そのことによって監視・制御の容易さは異なります。シンガポールや日本などは、中国のまねをすれば経済に大打撃を受けることになります。ロックダウン (都市封鎖) は、最悪な状況下での最終手段でしかないのです。

当然ながら新型コロナウイルス感染症が拡大し続ければ、とるべき戦略はさらに過酷なものになる可能性があります。制御不能となれば、封じ込めの手法は変わります。そこで、すべての感染者をみていくのではなく、重症リスクの高い感染者を特定して支援する手法が現実的で望ましいでしょう。万が一重篤患者が急増してしまうと、凄惨なトリアージ (患者の緊急度に応じて治療の優先順位を決定し選別すること) (若者の命を救うため高齢者を見殺しに) をやらざるを得なくなってしまうのです。