新型コロナウイルスについて知っておくべき「基本情報」と「今後のシナリオ」



世界的に感染が広がっている新型コロナウイルスは「どのような構造で」「どのように拡散し」「どんな危険を秘めている」のでしょうか。

WHO (世界保健機関) が未知のウイルスについて第1報を受けたのは2019年12月のことでした。人口1,100万人以上の武漢市で集団発生したこのウイルスは、のちに新型コロナウイルスであることが判明。治療困難で死にも直結する深刻な肺炎の原因となっています。

 

新型コロナウイルスとは

「コロナウイルス」は何百もあるウイルスの仲間の一つで、発熱・呼吸疾患・胃腸の症状などを引き起こします。そして今回の「新型コロナウイルス」は、ヒトに感染する7種のコロナウイルスのうちの一つです。これまでは、ヒトに日常的に感染する風邪のウイルス4種類と、SARS (重症急性呼吸器症候群:2002年発生) 、MERS (中東呼吸器症候群:2012年発生) の2種類が知られていました。今回の新型コロナウイルスも、要はヒトと動物の両方に感染する「コロナウイルス」の一種なのです。

感染すると、一般的な風邪症状から重度の感染症 (肺炎)まで、幅広い呼吸器疾患を引き起こします。無症状の人もいますし、咳・鼻水・喉の痛み・息苦しさ・頭痛・発熱・味覚障害・嗅覚障害・深刻な肺炎・気管支炎など、症状は人によって様々です。特に危険なのは高齢者や持病患者…もちろん若者だって十分に気をつけなければなりません。

 

 

どのように発生し、どのように広まる?

このウイルスは、中国・湖北省・武漢市の海鮮市場で発生したと考えられています。この市場では鳥・ウサギ・マーモット・コウモリ・ヘビなどの野生動物が違法に取引されています。これらの動物から人に感染したのでしょう。今回の場合はコウモリが発生源である可能性が高いとされています。SARSの発生源でもあります。

新型コロナウイルスは、今世紀に入って「動物からヒトに感染した」ことがわかっている3番目のコロナウイルスです。現在研究者たちは、新型コロナウイルス (正式名称はSARS-CoV-2) がヒトの間でどのように広がっていくのかを解明している最中です。飛沫感染 (咳やくしゃみ) や接触感染で感染する可能性が高く、潜伏期間は2〜14日とされています。

 

 

予防法は?

ワクチンや治療薬が確立されていない今は、とにかく「手洗いを徹底」し「人混みを避ける」ことが重要です。手と同様に、スマートフォン・パソコンのキーボード・ヘッドフォンなどにもウイルスは付着します。とにかく手を洗いましょう。高リスク群 (高齢者、糖尿病・心不全・呼吸器疾患などの基礎疾患を有する人) に属する人に限らず、全国民に手洗いを徹底させるべきなのです。

 

 

インフルエンザより怖い?

今のところ何とも言えません。1年間のインフルエンザ患者数は日本国内で1,000万人 (死亡者数は数百人〜2000人) くらいだと言われています。また、直接的及び間接的にインフルエンザの流行によって生じた死亡を推計する超過死亡概念というものがあり、この推計による年間死亡者数は、世界で数十万人、日本でも約1万人と推計されています (様々な統計があるので数値自体は定かではありませんが)。

一方、新型コロナウイルスの患者数や死者数を現状確認するのは非常に難しいものがあります。なぜなら、感染している人の数がはっきりわかっていないからです。ある調査機関は、「COVID-19の死亡率は約2%でインフルエンザより高い」と推察しています。とはいえ、これには症状があまり重くない患者数が含まれていない可能性もあります。無症状・軽症の人は病院に行かないでしょうし、インフルエンザや普通の肺炎と間違えられている場合もあるでしょう。

「COVID-19」とインフルエンザの最も大きな違いについて。後者は毎年流行する一方で医療制度の備えがきちんとできています。ほかの年よりも重症を引き起こすウイルスが流行する年もありますが、それでも医師たちは治療・予防の方法を知っています。これに対して前者は未知の分野です。どのように広がるかなど、わからないことがあまりにも多いのです。

 

 

新型コロナウイルスの正式名称は?

ウイルスの分類を正式に託された国際委員会は新しいコロナウイルスを「SARS-CoV-2」と名づけました。「SARSのコロナウイルスに遺伝子的に近いから」という理由です。ところが一般的にはWHOが定めた「COVID-19」(コーヴィッド・ナインティーン) が正式名称として広まっています。WHOは特定の場所・動物に言及せず、発音しやすい名称を選んだのです。

「HIV/AIDS」の場合を考えてみましょう。ヒト免疫不全ウイルス (human-immunodeficiency virus/HIV) がヒトに感染したとします。治療を受けなければHIVは後天性免疫不全症候群 (acquired immune deficiency syndrome)、つまりAIDSを引き起こします。「SARS-CoV-2」に感染しても発病しない人たちもいますし、この病気の症状である「COVID-19」を発症する人たちもいるのです。

 

 

コロナウイルスの仕組みは?

コロナウイルスは、α(アルファ)、β(ベータ)、γ(ガンマ)、δ(デルタ)の4つのグループに分類されています。γとδは主に鳥類に感染するコロナウイルスで、αとβは主に哺乳類に感染します。ヒトに感染するコロナウイルスは1960年代に確認されていましたが、その頃は、軽度の症状しか引き起こさないと考えられていました。このコロナウイルスは1本のRNA (リボ核酸) からできており、その遺伝物質は小さなスパイクたんぱく質 (とげ状のたんぱく質) が突き出した薄膜に囲まれています。顕微鏡で見ると「王冠」のよう。なので、「王冠」を意味するラテン語の「コロナ」(corona) が名付けられたのです。

コロナウイルスは体内に入ると宿主の細胞にくっついて細胞の核にRNAを注入します。その後複製機構を乗っ取ってウイルスを増やしていくのです。そして、人体のどの部分に付着するかによって重症度が決まります。風邪程度の症状であればコロナウイルスが鼻や喉などの気道上部に付いたと考えられますし、肺や気管支に取り憑くと、重症化しやすいと考えられています。場合によっては呼吸障害だけでなく腎機能障害も引き起こします。さらに、重症度を左右するもうひとつの要因に「コロナウイルスが作り出すたんぱく質」があります。遺伝子が異なればたんぱく質も異なるのです。悪性のコロナウイルスは、ヒトの細胞によってうまく付着できるスパイクたんぱく質を持っているのかもしれませんし、免疫システムを回避できるたんぱく質を作り出すものもあるようです。この場合、患者の免疫反応が大きくなればなるほど症状は深刻化してしまいます。

 

 
これからどうなる?

2009年以降、「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態が宣言」されたケースが5回あります。豚インフルエンザ (2009年)、ポリオ(2014年)、エボラ出血熱 (2014年)、ジカウイルス (2015年)、そして再燃したエボラ (2019年) です。2020年春、新型コロナウイルスの感染拡大はエピデミック (局地的な流行) を通り越してパンデミック (世界的大流行) となってしまいました。感染者と死者の数が増え続ける中、これからどうなっていくのでしょうか?

SARSのようにいつの間にか終息してしまう可能性もありますが、人々が「感染を制御できた」と考えて安心したときに、より強力になって戻ってくるアウトブレイク (集団感染) は歴史上たくさんあります。北朝鮮のような脆弱な医療体制しかない国々や不衛生なアフリカなどで爆発すると大惨事になる可能性があります。人口が多く資源の乏しい地域にウイルスが拡散したときに何が起きるのかを見守る必要があります。

一方で、「突然変異でウイルスの感染力が強化されることはない」というちょっと安心なデータもあります。ことだ。SARSの研究では、突然変異は実際、感染能力の縮小をもたらしたことが示唆されています。豚インフルエンザが発生した後は無事終息していますし、SARSの発症例も2005年以降は見られていません。今回も、2年間を目安に必ず終息できると信じたいものです。

 

  
まとめ

過去に起こったSARSやほかの飛沫感染症の経験から考えると、「(終息するであろう) 夏頃までに流行はだんだん縮小していく」可能性があるとも言われています。ただし、次の冬にまた発生するかもしれません。それでも、封じ込めの作業はけっして無駄ではありません。時の経過とともにウイルスは毒性の低いものに進化するかもしれません。夏の天候に直面して感染が鈍化することもあるでしょう。今私たち一人ひとりができることは、愚直に感染拡大や死者の発生を防いでいくことなのです。

COVID-19が自然に消滅しなければ、インフルエンザのような「風土病ウイルス」になる可能性もあります。その覚悟を持つことは必要です。いやむしろ、このウイルスは5番目のヒトコロナウイルスとなって定期的・季節的にアウトブレイクを引き起こす可能性が高いとも言えるでしょう。であるならば、少しでも早くワクチンや治療薬が開発されてほしいものです。なぜ発生し、いつ収束するのか、正直なところ誰もわかってはいません。それよりも今大事なのは、医療崩壊を起こすことなくワクチン・治療薬の開発までどう時間を稼ぐか…なのです。