なぜフィリピンでは離婚が禁止なの?



フィリピンは、(バチカン市国を除いて) 「世界で唯一離婚が認められていない国」とされています (マルタ共和国は2011年、国民投票の結果「離婚が合法化」されました)。ちなみにフィリピンでは結婚の手続き自体が煩雑です。

婚姻許可証 (marriage license) を申請し、10日間の調査を経て受理された後、120日以内に婚姻を挙行できる権限のある婚姻挙行担当官 (裁判官・判事・牧師・神父・市町村長など) と成人2名以上の証人の前で婚姻証明書に署名することで婚姻が成立するのです。

 

離婚は違法

フィリピンでは、「死が2人を分かつまで」別れられない法律のせいで、4人に1人の女性が配偶者による虐待などに苦しんでいると言われています。ところがこの (離婚は違法という) 保守的な法律があるにも関わらず、国民は必ずしも保守的ではありません。ある世論調査では、「(国民の半数以上は) 離婚を合法化すべきだ」と考えているようです。さらにフィリピンは、アジア各国に比べて「もっともジェンダー (性別) 間の平等が守られている国」でもあるのです。男女の賃金格差はほとんどなく、内閣の男女割合もほぼ均等です。ハラスメントや差別を取り締まる法律も厳しく整備されています。そんなフィリピンでは法的には「結婚はやり直せない」もの。では離婚が許されていないフィリピンの人々は、別れたくなったときどうすればいいのでしょうか。

それは、「法的分離」を申請すれば少なくとも共同生活は終了し、共通資産の分割が可能になるというわけです。とはいえ、この場合であっても2人は法的には夫婦であり続けます。永久に同じ姓を名乗る必要があり、家を購入する際には「配偶者」の署名が必要となっています。もうひとつ、「結婚を無効にする」という手段もあるのですが、これには莫大な費用がかかります。中流階級の平均年収にあたる30万ペソ (約60万円) が必要で、最大100万ペソ (約200万円) かかることも。フィリピンではまた妊娠中絶も違法です。懲役6年の刑に処される可能性だってあるのです。ちなみに避妊薬の使用は禁止されていませんが、それすら「激しい法的な争いの対象」になっています。

 

 

国民の10%は離婚反対

かつてスペインの植民地だったフィリピンにはキリスト教徒が多く、国民の4分の3が「宗教はとても重要」と考えています。選挙においては、「候補者が所属する教会」や「行なっている宗教運動」によって投票先を決める傾向にあるとも言われています。余談ではありますが、フィリピンのドゥテルテ大統領は子供の頃に司祭からわいせつ行為を受けたことがあって、神を「バカ者」、教皇を「売春婦の息子」と呼んで教会を困らせています。

このような事情もあってか、フィリピンではカトリック教会の影響力が落ちてきている一方で、プロテスタント勢が台頭し始めています。
フィリピン人の約10% (約1000万人) はプロテスタント、あるいは福音主義者を名乗っています。彼らは聖書を「文字通りに解釈する」傾向があるため、「離婚」「同性婚」「中絶」に激しく反対するのです。その一方で、離婚を合法化する動きは進んでいます。

 

 

離婚への抜け道

「離婚が違法」なフィリピンでは、前述した2つの方法 (「法的分離」「結婚を無効にする」) 以外にも、結婚相手と別れるための抜け道が一つだけあります。それは、「まともな判断能力がない時に結婚してしまった」「相手が精神的 におかしい」と神父や精神科医に証明してもらい、結婚そのものが無効だった ことを裁判所に申し出る方法です。とはいえこの方法でもお金がかかります。裁判費用として最低でも50万円ほどが必要となってきます。国民の4割ほどが一日2ドル以下で暮らしているこの国では、一部の富裕層しか利用できない方法と言えるでしょう。

 

 

離婚・再婚の自由が欲しい

法的に別居すること自体は認められていますが、これにも裁判費用がかかるため、多くの場合「届け出をせずに別居して、新しいパートナーと事実婚をしている」ケースが少なくないようです。その結果、事実婚で誕生した子どもが婚外子となるという問題が取りざたされています。

フィリピン法務省によれば、2010 年に婚姻無効の判断が下ったケースは約9000組、法的別居が許可されたのは約130件です (申し立ての6割は女性から)。こうした手続きすらできない貧困女性を救うために、「5年以上別居して修復の見込みがない」「法的別居をして2年以上が経過している」「配偶者に暴力をふるわれた」といった事実があれば廉価な手続き費用で離婚できるという法案を提出されています。フィリピンでも、「離婚」「再婚」の自由が手に入るといいですね。

 

 

おわりに

日本の離婚率は約35% (3組に1組の夫婦が離婚)で、年間離婚件数は約22万件と言われています (婚姻件数は約60万件)。必ずしも「結婚 = 幸せ」ではないんです。