「日本型介護」に注目するアジア諸国



海外 (東アジアや東南アジアなど) ではまだ日本のような「介護」という概念は確立されていません。高齢者ケアは未分化で、多岐にわたっていると言えるかもしれません。背景には、メイド文化 (住み込みのお手伝いさん) が社会制度として残っていることも関係しているでしょう。地域によっては、たとえば香港や台湾などではフィリピン人が高齢者ケアの人材として活躍していたりします。

ちなみに日本では「介護」と「医療」は明確に区別されており企業が「介護」業界に新規参入しやすい制度が構築されていますが、アジア諸国ではそうではありません。そもそも海外には日本のような「介護保険制度」はないのです。今後は日本型介護を実現するために「介護保険制度」が作られるか、あるいは別の形で現地のニーズに即したサービス・製品が開発されるのかもしれません。

一方で、日本とアジア諸国には多くの共通点もあります。それはたとえば欧米諸国に比べると子どもや家族が親のケアをするという意識が高いことです。しかしながら都市部での核家族化が急速に進んでいるアジア諸国では、日本と同じように介護を施設などに頼らざるを得ない状況も出始めています。

 

介護先進国「日本」

日本は世界トップクラスの超高齢社会ですが、アジアの周辺諸国はどんな感じでしょうか。たとえば人口13億人超の中国における高齢化率も非常に高く、既に日本の人口以上の高齢者を抱えていますし、2050年には3億3,000万人に達するとも言われています。とはいえ介護分野はまだまだ黎明期。日本の介護福祉士にあたる「養老護理員」という資格職はあるものの、賃金などの待遇面や専門知識・技術の問題から職業として確立されているとは言い難い状況にあります。韓国も高齢化率は高く (2050年には35%まで上がる予想) 、世界の中で日本に次ぐ高齢者大国になると考えられています。

台湾は日本とほぼ同じスピードで高齢化が進んでいるとされています (2050年には国民の3人に1人が高齢者という超高齢社会に突入する予想)。そんな国々で今注目されているのが日本の介護です。韓国は日本の介護保険制度を参考に「老人長期療法保険法」が制定されましたし、中国では日本の介護施設と交流・提携し、日本のノウハウを現場に取り入れる施設も出てきています。ひと足先に超高齢社会を迎えた日本が、様々な面で先を行っているようです。

 

 

技能実習制度

2018年夏、日本政府はベトナムから介護人材を受け入れることをベトナム政府と合意しました (2020年までに合計1万人予定)。政府はさらにインドネシア・ラオス・カンボジアなどからも受け入れを拡大していく考えです。外国人技能実習制度での受け入れが予定通りに進めば、外国人介護士の数は一気に増えることになります。高齢化のトップを走る日本は、今後「超高齢社会」にどう対応していくか、東南アジアを含む世界各国から注目されていると言えるでしょう。

しかしながら一方で、東南アジア諸国の人材は (言葉が通じやすい) 英語圏での就労を希望しがちです。事実、先進諸国はどこも介護の担い手をアジアに求めていますし、人材の争奪戦は既に始まっています。とはいえ、東南アジア諸国にとって日本は介護先進国でありお手本とすべき (学ぶべき) 国でもあります。日本では、「身体的なケア」の面でも尊厳への配慮といった「精神的なケア」の面でも質の高い介護を提供する力を培ってきています。そうした日本ならではの介護を学ぼうという人材も少なくないことでしょう。

 

 

「日本型介護」の輸出始まる?

外国人の介護職を受け入れる一方で、質の高い日本の介護をアジアに輸出していこうという動きもあります。日本政府の支援を受けながら、多くの日本企業・団体が「日本型介護」のパッケージ輸出を目指しています。これに伴い、現地での人材育成・介護機器の販売・介護ロボットやITシステムの開発など、様々な計画が進んでいます。

 

 

おわりに

たとえば中国では、要介護者の尊厳に配慮する意識がまだ十分ではありません。特に認知症者への対応の習得はこれからという段階です。それだけに、日本から進出して行っている現地の介護事業施設では質の高い日本式介護が評判を呼んでいます。

それでもやはり文化の違いは壁・・・現地採用の職員に日本型介護を教育していくにはそれなりに時間がかかります。尊厳への配慮という意識が十分でない…といった問題もあるようです。そんな考え方や生活様式が異なるアジア圏で、どのように日本型介護を伝え、定着させ、広めていくのか。日本型介護の輸出が持つ可能性は大きい一方で、課題も多いと言えるでしょう。