現在中国では、電話や携帯メールなどを駆使した「電信詐欺」というものが大きな社会問題となっています。
オレオレ詐欺はじめ、詐欺自体はどこの国でも起こっていることなのですが、中国の詐欺は多様化!そして手口が汚い!より巧妙化しているのです。
2016年夏、そんな詐欺の恐ろしさをまざまざと知らしめるとんでもない事件が起こってしまいました!
ある日、山東省に住む女子高校生Aさんのもとに「あなたに、奨学金2,600元が支給されますよ」といった内容の嘘っぱちの電話がありました。
喜んだAさんは、電話の指示に従いATMにカードを3回差し込みますが当然お金を手にすることはできません。
詐欺なのですから…
それでも疑わなかったAさんは電話の主に連絡すると、「他にカードはないか」と言われ、「学費支払い用のカードならある」と返答。
すると電話の主は、「そのカードはまだ使えない。使えるようにする必要があるので、口座に入っている学費を指定の口座に移し替えてほしい。」と言われてしまったのです。
このあたりで「ん?何か怪しいぞ」と気づくべきだったのですが…
「言われた通りにしてくれれば、30分後に奨学金を学費と共に学費支払い用の口座に戻しておきますよ」と言われ、、、
何も疑うことなく、指示通り学費9,900元を引き出し、指定の口座に振り込んだのです。ところが (…というか当然)、30分待っても1時間待っても奨学金の入金はなかったのです。
まんまと、彼女は学費を騙し取られてしまったのです。
貧しい家庭に育ったAさんにとって、1万元もの大金を一瞬にして騙し取られたことは大きなショックでした。
ちなみに、2016年9月の為替レートはおよそ
1人民元 = 15円
つまり、貧しい家庭に生まれ育った女子高生のAさんは、一瞬にして15万円もの大金を失ってしまったのです。
15万円…
日本人の感覚での15万円ではありません。爆買いで有名な中国人富裕層の人たちとは違い、中国には多くの貧しい人々も存在しています。
きっと、Aさんにとっての15万円は数百万円ほどの価値があったに違いありません。
騙し取られ、相当なショックを受けたはず!
・・・
地元公安局の派出所へ被害を届け出た帰り道、Aさんの心臓は急に止まり、2日後、帰らぬ人となったのです。
もしこの事件がなければ、Aさんは9月1日に南京郵電大学に入学するはずでした。この事件は中国メディアで大きく報道され、多くの人々の注目を集めています。
「命が一番大事なのに…」
「時間がかかっても稼げただろうに」
といった同情の声が寄せられる一方で、
「気持ちが弱い!」
「騙される方が悪い!」
と、Aさんの問題を指摘する声も相次ぎました。
これに対し多くのメディアは、社会の問題として真摯な報道に徹しているようです。
例えば、『新京報』の評論では、「女学生を単に社会経験が浅かったと責め立てるのは酷な話である」とした上で、次のように述べています。
「公共安全が保障された社会とは、人々に『護身術』を学ばせる社会ではない。良好な管理が行われ、秩序が健全な公共空間は、人々に詐欺防止を呼びかける必要はなく、『いい人が騙される』という傾向がまかり通ることのない場所であるべきである」
本当にいいことを言ってくれています。
こんなにも清々しいコメントをズバッと言ってくれているメディアが日本にはあるでしょうか?
モラルも秩序もなさそうに感じてしまう中国でさえ、崇高なる意見も存在し得るのです。
日本はどうなのでしょうか?
考えさせられますね。
この事件を一側面から見ると、「Aさんの防犯意識の低さが原因」ともいえます。しかし、単純にそう結論付けることはできません。
なぜなら、犯人はAさんの詳細な個人情報を握った上で絶妙なタイミングを見計らって詐欺電話をかけてきていたのですから。。。
学校や関連機関が厳重に管理すべき個人情報が何らかのルートでダダ漏れしていたことが今回の事件を招いてしまったのです。
人の弱みに付け込んだ詐欺…
絶対に許せない!
通常、電信詐欺事件が起きても、中国の警察はほとんど取り合いません。日本のストーカー犯罪のようなものです。
でも、今回の事件に関しては違いました!
Aさんのニュースは中国全土を駆け巡ったため、警察も威信をかけて捜査に全力を注ぎ込んだのです。結果、容疑者6名を逮捕!
しかし、国民の反応は「どうせ捕まったのは詐欺グループの末端の雑魚だろ」と冷めたもの。
事実、非常に正確な個人情報を元にした詐欺だったため、情報収集と実際の詐欺行為は別のグループによるもの。
犯罪は何段階かに役割が分かれていると考えるのが普通なのです。まさに、捕まったのは雑魚ばかり…
日本でも、新聞記事で目にするのは「詐欺事件!実行犯逮捕!」の文字ばかり。背後に潜む巨大な「悪」にメスを入れられることはないのです。
現在中国では、電話・電子メール・携帯メールなどを利用した詐欺事件がここ数年で10万件から60万件へと急増し、その被害総額222億元!
そのうち、100億元余りは台湾からのものとされています。
中国で目下急増中の電信詐欺は、台湾で盛んになっていった後、東南アジア、東アジア、中国大陸に蔓延していったというのが大方の見方なのです。
なんとかしてちょうだい、台湾!
理由1. 拝金主義によるモラルの欠如
「金のためなら手段を選ばない」
「自分さえ儲かればそれでいい」
理由2. 経済格差により詐欺グループが拡大
経済の格差拡大に伴い、北京や上海などの大都市に比べ、内陸部は所得・民度ともに低いのが現状。
また、貧しい地域では教育を受ける機会も与えられない人たちもおり、そういう人たちは高い所得を得られる仕事に就けません。
そのため、一部の者たちはこうした犯罪に手を染めていくのです。つまり、詐欺の「職業化」が定着してしまっているのです。
理由3. 個人情報の漏洩
特に中国では「プライバシーも何もあったもんじゃない!」と言われたりしていますが、あながち冗談とも言えないようです。
普通、先進国であれば、個人情報の漏洩は信用問題に関わるため、厳重に管理され、それに関する法律もきちんと整備されているものです。
しかるに、中国では、だいぶ改善されてきたものの、いまだ個人情報は漏れまくっている状態なのです。
住宅を購入すれば必ずリフォーム会社から電話がかかってきますし、子どもが生まれたら育児関連商品の営業電話がかかってくるのです。
それは、各部門が個人情報を他に転送する各段階でどこからか漏れていると考えられる。
現在の中国の詐欺は「職業化」し多様化しています。日本でよく見かける「オレオレ詐欺」や「あなたは○○に当選しました」といった当選詐欺はおろか、
性的不能な夫を持つ富裕層の「奥さん」を騙り、「私を妊娠させれば高額の報酬を払います」という広告を出して金を騙し取る「重金求子」詐欺、
また、航空会社職員を騙って「搭乗予定の便がキャンセルになったので払い戻しや変更を行う」といい、手続費の名目で金を振り込ませる詐欺などもあるのです。
人々の欲望や不安に付け込む詐欺の手口というのは万国共通!
詐欺師たちは人間の心理をうまく突いてくるのです。冒頭の事件も、奨学金を得て両親の負担を減らしたいという女子高生の思いをうまく利用したものでした。
こうした状況を受け、中国共産党もついに「電信詐欺撲滅」に動き始めたようです。
習近平総書記、李克強国務院総理ら党と政府の指導者は、電信詐欺の撲滅を関係部門に強く指示したのです。
功を奏すのか、中国の「電信詐欺撲滅作戦」!
皆さんも、
「楽して利益が得られることなどない」と心して、絶対に詐欺には引っかからないようにしてくださいね。

2015年11月から半年に渡り行われた「詐欺撲滅運動」では、ケニアやマレーシアなどを拠点に中国人を狙った電信詐欺を行っていた台湾の詐欺グループが一斉摘発されましたが、完全撲滅には至っていません。